イマドキの映画館といえば、1つの建物にいくつものスクリーンが併設されたシネマ・コンプレックスが主流ですが、日本各地には個性的な映画を、特別な雰囲気のある劇場で上映するミニシアターがあります。
映画が大好きなオーナーが手作りの空間を作ってしまい、好きな作品、みんなに見て欲しい作品をどんどん提供する。デジタルスクリーン全盛の中、そんなアナログな世界に浸ってみるのも楽しいものです。また地方のミニシアターには、その土地ならではの味があり、旅の1コマにプラスするのも、また一興。さっそく全国に点在する、ユニークなミニシアターをご紹介しましょう。
● サラリーマンが作った夢の映画館@岡山
岡山駅から路面電車に乗って3駅目。城下駅下車すぐの場所に、コンクリート打ちっ放しのおしゃれな建物「シネマ・クレール」があります。
オーナーの浜田高夫さんは元岡山ガスのサラリーマン。会社に勤務しながら、20年近く映画の自主上映活動を続けてきたという、根っからの映画好きです。そんな彼が48歳で退社し、退職金を注ぎ込んで作りあげたのが、この美しいミニシアターなのです。
劇場に入ると、天井高10メートルはある広々した空間に、ミニシアターとしては相当大きめなスクリーンがあります。傾斜状に備えられた客席はどこに座ってもゆったりと映画が見られ、映画という芸術を愛したオーナーの心意気が現れています。シネコンに対抗して作られたという設備は、まさに岡山という場所に作られた小さな宝箱のようなもの。年間200本ほどの作品がかかり、この地域の文化の一翼を担う存在でもあります。
2月のラインナップは懐かしの日本映画から、ドイツ、イタリア、フランス、中国などで製作された話題作がずらり。地元の人はもちろん、岡山への旅や出張の合間にのぞいてみるのも楽しいに違いありません。
● 映画好きの飲み屋の親父が作った映画館@札幌
札幌市中央区。すすきの駅から歩いて10分ほどの場所に「シアターキノ」があります。
この地で飲み屋を経営しながら、映画祭の事務局をやったり、音楽、演劇、映画など様々な芸術活動をサポートする活動をしていた中島洋さんが代表を務める映画館で、もともとは飲み屋の仲間たちが1人10万円ずつ出資してスタート。現在は410名の株主を抱える、市民出資によるNPO型の市民映画館です。
劇場は14階建てビルの2階にあり、自慢の音響設備と座り心地のよいフランス製の椅子がお出迎え。映画講座やこども映画制作ワークショップを行うなど、芸術の市民活動も盛んで、札幌文化の匂いを感じることができる場所です。チケット販売などを行うボランティアスタッフはいつでも募集中。「シアターキノ」で上映される映画がタダで見放題という特典付きなので、映画ファンは要チェック!!
● 映画監督が作った映画館@沖縄
沖縄を拠点に映画製作を行い、『ナビィの恋』などの作品で知られる中江裕司さんがスタートさせた「桜坂劇場」は那覇市の中心街、国際通りから少し入った桜坂にあります。
このミニシアターの特徴は、なんといっても映画館らしくないところです。ライブや演劇などができるホールがあり、沖縄の作家たちの陶芸作品などを扱うセレクトショップ、カフェなど、さまざまなアート空間があり、映画を見るついでに、買い物や食事が楽しめてしまいます。「桜坂市民大学」というワークショップも大人気で、「ウチナーグチ(沖縄の方言)講座」「沖縄空手」「うた三線教室」「手作り沖縄そば講座」など、あらゆる分野の講座が100以上ラインナップ。楽しくて、うっかり映画館の存在を忘れそうです。
もちろんミニシアターですから、映画もちゃんと見て、でも普通の観光だけでない沖縄の風土、文化が味わえる特別な劇場として、ぜひ一度足を運んでみたい場所です。
日本全国を探すと、東京、大阪、京都、名古屋などの大都市圏以外にも新潟、金沢、大分、群馬などで一風変わったミニシアターが健闘中。小さな劇場たちが日本の小さな文化の根っこを支えているのかもしれません。